【性風俗本】『日本の風俗嬢』(中村淳彦)

 

日本の風俗嬢 (新潮新書 581)

日本の風俗嬢 (新潮新書 581)

 

 【目次】

第1章 性風俗の現在(p15~)
 1、風俗嬢と売春婦は別物なのか
 2、誰がいつ逮捕されるのか
 3、日本に性風俗店は何店舗あるのか
 4、現在どのような風俗店が存在するか
 5、裏風俗とはどんなものか
 6、サービスはどこに行き着いたのか
第2章 ビジネスとしてのデリヘル経営(p77~)
 1、デリヘルは儲かるのか
 2、暴力団との関係はどうなっているか
 3、どんな客が迷惑か
 4、警察との癒着はあるのか
第3章 激増する一般女性たち(p103~)
 1、日本に風俗嬢は何人いるのか
 2、女子大生はなぜ風俗嬢を目指すのか
 3、なぜ介護職員は風俗に転職するのか
 4、なぜ「狭き門」になってきたのか
第4章 風俗嬢の資格と収入(p144~)
 1、主婦はなぜ一線を超えたのか
 2、女性たちのレベルはなぜ向上したか
 3、実際にどのくらい稼げるのか
 4、人材はどう育成されているか
 5、個人売春はワリにあうか
第5章 スカウト会社とスカウトマン(p195~)
 1、スカウト会社とは何か
 2、スカウトマンは気楽な稼業か
第6章 性風俗が「普通の仕事」になる日(p212~)
 1、性風俗は普通の仕事になるか
 2、風俗嬢の意識の変化をどう見るか
 3、安心して働ける職場になるのか

 

【概要・感想】

 性風俗の現状を知るために必読の一冊。

 規制強化によるデリヘルを筆頭とする無店舗型風俗の流行、日本社会における女性の貧困層の拡大、1980年代前半生まれのブルセラ世代以降の性に対する解放的な意識、ネットで求人広告に簡単にアクセスできるようになったこと等により、性風俗で働く女性が増加。それに伴う競争の激化により、女性が働くために求められる容姿や社会性のレベルが上がる一方で、身体を売ることの価値は下がり続けている現状が描かれている。

 性風俗の実態は、容姿・教養・社会性・技術を備えた一部の女性のみが大金を稼ぐことができ、多くの女性はフルに働いてもサラリーマン並みの給料、容姿や社会性やメンタルに困難を抱えている者は面接の時点で落とされてしまい、働きたくても働けない者が増加しているとのこと。

「裸になって簡単にお金を稼ぎ、ホスト遊びやブランド物の消費を謳歌する風俗嬢」「性風俗貧困層セーフティネットになっている・メンタルや知的に問題のある女の子の受け皿となっている」などというイメージが既に過去の遺物となっていることが、各種統計や当事者のインタビューを通して明らかにされている。

 また、性風俗で働ける倍率が高くなっていることから、やりがいや誇りを感じながら働いている女性も多く、「性産業で働く女性は搾取されている」「性奴隷だ」などというお節介な考えが現状から全く乖離したものだという、とても大切な指摘がなされている。

 その他にも、性産業のフィールドを観察している著者ならではのネタがたくさんあってとても面白い。摘発を恐れるグレーな性風俗店と、ノルマ達成のために摘発したい警察との癒着。みかじめ料を払わないと嫌がらせをしてくる暴力団。スカウトマンの情熱と苦労。無店舗型が主流になることにより、働く女性がトラブルに巻き込まれやすくなったことや、店舗で研修や技術の継承が為されていたSMクラブの衰退などのデメリット。40歳辺りから需要が一気になくなる問題。生本番などの過激なサービスがなぜ蔓延するのか。介護職と性風俗の親和性。地方出身の女子大生風俗嬢の多さ。日本の性風俗店・風俗嬢の数の推定値。現在活躍中のNPOの紹介などなど。

 ファッションヘルス、イメクラ、ソープランドピンクサロン、デリヘル、性感マッサージ、SMクラブ、個人売春、裏風俗など、一連の性産業の簡単な歴史、法的な立ち位置(建て前)とグレーな部分の多い実態についても簡単に整理されていて初学者にも優しい。

 なにより、性風俗店の業態別の採用偏差値(容姿、社会性、技術等による)が数値化・ランク付けされ、どの業態ではどのくらいの偏差値の人が採用され、どのくらい働けばどのくらい稼げるのかの基準が整理されているのが圧巻。

 性産業について、法律・当事者の意識・現状の課題・これからの展望など、俯瞰的に知ることができる入門書の決定版。性風俗に興味がある人なら必ずよむべし。